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映画、読書、音楽等の覚書です。

『プリデスティネーション』~宿命から抜け出せるのか?

映画『プリデスティネーション』を観た。

 

ハインラインの原作短編は事前に読んでいたので(細かいところは忘れたけれど)、ネタバレ的な核心部分も全て知っています。

映画的には爆弾魔フィルズ・ボマーを追うエピソードをつけ加えているらしい。

衝撃(?)の展開の割には、動きが少ないストーリーなので、いいのかも。

 

それにしても、奇妙な話だなと思う。

ハインラインのある種の性向的なものが出ているらしいです。

(ネタバレになるので書きませんが)

『悪徳なんかこわくない』などを読めばわかるということですが、あらすじは知っているけれど、未読なんですよ。

でも何となくわかります。

 

ここから下はネタバレ

 

  

あるバーにふらりと現れたジョンという作家が語り始める身の上話。

「私が少女だった頃……」

それを聞くバーテンダーイーサン・ホーク)。

 

ジョンがジェーンだった頃の数奇な運命を聞いた後、バーテンダー氏は、時間を行き来し、ある任務を背負っていることがわかる――。

 

原作『輪廻の蛇』という題名のごとく、結局、ヒロイン、ジェーンを過酷な運命に追い詰めたのは、結局ヒロイン自身ということになります。

「おのれの尾を食う蛇」~ウロボロスのような宿命。

 ジェーンが希望を持ち始めたり、運命が良い方向に行こうとすると阻む謎の男性。

 それがなんと自分自身とは……。

 

ジェーンの不幸は、才能がありながら、他者への共感ができず、孤立していく部分でしょうか。

けれど、彼女のせいというには可哀想。

 

結局、自分のことが一番理解できるのは自分。

不幸な女性に共感するジョンですが、それはなぜならば…慰めたくなるのもわからなくはないです。

だから、この映画では究極の自己愛に繋がるように見えます。

 

その後、ジョンと結ばれ、幸せを感じるジェーンですが、ある時、ジョンは姿を消します。 

ジェーンは妊娠していることがわかり、出産した女の子につけた名前はジェーン(なぜ同じ名を?と思うのですが…ここらへんは屈折しています)。

出産時、医者がジェーンは自分が特殊な身体構造……両性具有であることを知り、彼女に告げます。

(この前の時点で示唆する部分はあるのですが)

 

それにしても、宿命から抜け出せずにいる主人公は、結局やはり救われていない?

 

いや、ラストにおいて、爆弾魔を阻止したジョンは己の運命を止めるために留めを差したのだとすれば、それが救いかも。

 

しかし不思議な話です。

そもそも、自分が自分に恋して関係を持つなんてこと、いくら何でもないと思います。

 

SFとしても、ツッコミどころはいろいろある気が。

同じ時間に自分が二人存在することはできないというタイム・パラドックスは、ここでは作用しないらしいですし。

原作者が「こういうアイディアがあった」と喜んで細かいところは目をつぶって書いたのかも?

それから、原作自体もレトロな道具立てだけど、映画でもまさかそのままレトロ風味(ヴァイオリンケース型のタイムマシーン)にするとは思わなかったです。

 

ネットで検索すると概ね評判は高いようですが、私はそこまでかな? と思わんでもなかったです。

 

ジェーン/ジョンを演じたサラ・スヌークは、ジョンの時には、ジョディ・フォスターにちょっと似ている。

ユニークな雰囲気はもっと注目されてもいいかもしれないと思います。

 

輪廻の蛇 (ハヤカワ文庫SF)

輪廻の蛇 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 

イーサン・ホークは、こういうカルトSFっぽいのが似合いますね。

ラスト近く、ある役を演じた彼はさすがの演技力でした。

この映画の監督さんたち(スピエリッグ兄弟)、前作『デイブレイカ―』でも彼を起用している。

相性がいいようですね。

人間ドラマもいいけれど、イーサンはSFものと合う感じなのかも?

そうそう、かつて彼が出ていた『ガタカ』というSFがとても印象に残っています。

これについては後日に書くかも。

 

ところで、私ならどう書くか(すみません、こういうクセがあるんですよ)。

ラスト、もう一ひねりして、あの状況を避けて、何とか別の幸せが見つけられてたら、というところまで持っていきたい気がします。

あと、もう少しユーモアがある方がいいなと思うのですが、あのストーリーじゃ、入れようがないか。

 

でも語り口の静謐さは、不思議になじみました。